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第4回 クラウド時代の「LPIC」──なぜLinuxはそれほどまでに重要なのか
Linuxの技術者認定資格LPICについてLPI-Japan理事長の成井弦氏に聞いた。クラウドの時代はオープンソースの時代でもある。「オープンソースを生み出す仕組み」の理解こそクラウド時代の必須のスキルだと成井氏は語る。
クラウドの時代とは、それまでの常識がくつがえる時代だ。古い常識では想像できなかった現象の代表格が、Linuxを筆頭とするオープンソース・ソフトウェアの台頭である。Linuxは、クラウドを構成するサーバ分野で主要なOSだ。クラウドの時代とは、見方を変えればLinuxの時代でもあり、オープンソース・ソフトウェアの時代でもあるのだ。 特集「クラウド時代のITスキル・ポートフォリオを考える」の今回は、Linuxの技術者認定資格LPIC(Linux Professional Institute Certification)の運営主体であるLPI-Japan (Linux Professional Institute Japan)理事長の成井弦氏に、クラウドの時代のエンジニアのあり方について聞いた。成井氏の口からは、古い常識をくつがえすような言葉が次々と飛び出した。
2011年1月開始の「304試験」はクラウド時代の資格
まずは、LPICの最新動向について見てみよう。LPICは、難易度に応じてレベル1、レベル2、レベル3に分かれる。レベル1は、Linuxのサーバ構築に必要な知識を問う。レベル2は、Linuxのシステムデザインやネットワーク構築のために必要な知識を問う。レベル3は複数の資格に分かれる。「LPICレベル3 301試験(Core)」はエンタープライズレベルのシステムを考慮したLinux環境のシステム計画、設計、構築、実装スキルを認定する。「LPICレベル3 302試験(Mixed Environment)」はLinux、Windows、UNIXの混在環境でシステム構築するスキルを認定する。「LPICレベル3 303試験(Security)」はセキュリティに関するスキルを認定する。
そして、2011年1月より開始した「LPICレベル3 304試験(Virtualization & High Availability)」は、LinuxとOSS(オープンソース・ソフトウェア)による仮想化、負荷分散、クラスタ管理、クラスタストレージの知識を問う。
2011年1月時点で最新の認定資格である304試験は、まさにクラウド時代のスキルを問う内容となっている。仮想化と負荷分散は、多くのクラウド・インフラを支えている技術だ。

「サーバの数が多くなると、必ず故障します。そこで、トータルでシステムの高信頼性を担保する必要があり、そのスキルを問う試験が「304試験」です。高信頼が求められるクラウド時代のサーバエンジニアは、HA(High Availability、高可用性)とVirtualization(仮想化)の両方の能力を要求されます。もちろんクラウドシステムだけでなく、インターネットサーバにおいても、ダウンしたなら迷惑をかけるアプリケーションは非常に多いので、このような能力は必須となります」(成井氏)。
このように「304試験」は、Linuxがより重要な役割を担うようになり、Linuxに関するスキルの重要性が増している現状を反映した認定資格といえる。クラウドだけではない。仮想化や負荷分散などの技術はエンタープライズにおいても重要性が高まる一方の技術だ。
「クラウドの時代でも、すべてがパブリック・クラウドに移行するかといえば、そんなことはありません。例えば企業でプライベート・クラウドを構築するためには、仮想化やHAの技術は必要となります。つまりLinuxのスキルを持つエンジニアの需要は、至る所にあるのです」(成井氏)。
なぜLinuxの重要性が増しているのか
Linuxは、インターネット上のサーバのOSの過半数を占めている。いわば、インターネットの主流OSといってもいい。クラウドでもLinuxの存在感は大きい。クラウド・サービスを提供するベンダーの多くがLinuxを採用している。さらにHPC(High Performance Computing)分野や組み込み分野でも、Linuxは今や主流OSである。
ここで疑問が出てくる。Linuxは、なぜそれほどまでに重要な地位を占めるに至ったのだろうか。成井氏は次のように説明してくれた。
「差別化のためです。オープンソースではないOSでは、メーカーが想定したスペック以上のものは出てきません。オープンソースのOS、つまりLinuxは自由に内部に手を入れ、自社が必要とする能力を伸ばすことができ、不必要な部分は削ぎ落とすことができる。コストパフォーマンスが高くかつ競争力があるシステム構築が可能となります。Googleのクラウドが良い例です」。
実際、米Googleは、同社のクラウドを構成するコンピュータのOSとしてLinuxを採用している。また同社が推進するスマートフォン向けOSのAndroidも、カーネル部分にLinuxを採用する。オープンソースのLinuxを使いコストを抑えながら、その上に新たな付加価値を生み出しているのだ。
「自分の名前がソースツリーの中できらきらと光る」
Linuxが重要であるというだけではない。Linuxを生んだ、「オープンソース・ソフトウェアを生み出す仕組み」こそが重要なのだ、と成井氏は言う。「Linuxを学ぶエンジニアは、Linuxが成り立つ仕組み、つまりオープンソースの仕組みを理解する入り口に立ったことになるのです」。
オープンソース・ソフトウェアを生み出す仕組みとは何か。それは、企業内情報システムの開発などとはまったく異なる仕組みである。オープンソース・ソフトウェアは、ソフトウェア開発者達による無償の「貢献(contribution)」の蓄積により成立する。対価は発生せず、会社組織のような指揮命令系統もない。開発者は、オープンソース開発者コミュニティへ貢献の度合いで、コミュニティ内での評価を得る。具体的には、オープンソース・ソフトウェアへのパッチ(=バグ修正や新機能を記述したソースコード)の提供を継続的に行い、パッチの採否に関する議論に積極的に参加することで、開発者コミュニティの中で信頼を得て、コミュニティの一員となっていく。良い貢献を行ったエンジニアは、コミュニティの内外で高く評価される。そしてビジネスの世界で良い仕事を得ることもできる。
見方を変えれば、オープンソース・コミュニティは世界中のエンジニアが同じ土俵の上で競争する場でもある。共通の土俵の上で、誰の貢献を採用し(=パッチを適用し)、誰の貢献を却下するかという戦いが繰り広げられているのだ。 「Linuxは、コミュニティの各メンバーが貢献することで作られていきます。自分が書いたソースコードがLinuxのあるバージョンに入るということは、自分の名前がソースツリーの中に入る、ということです。クリスマスツリーの飾りのように、自分の名前がソースツリーの中できらきらと光る。世界中の人に『この人は凄いパワーがあるエンジニアだ』と示せる。その結果としてビジネスの世界でも良いポジションを得ることができる。これは凄い仕組み、またソフト開発体制です」(成井氏)。
そして、日本にいるエンジニアにも、このコミュニティでの競争に参加してほしいと成井氏は考えている。
「私たちがLPICを進める理由は、エンジニアがオープンソースの開発に参加する能動性と、コミュニティへの参加の仕方を学んでもらいたいからです。ぜひ、エンジニア達のグローバルな競争に参加してほしい」(成井氏)。
そこで重要となるには、オープンソース・コミュニティの流儀に基づくコラボレーションの方法だ。
「自分が一番知っている分野において貢献するには、英語は問題ではないのです。日本にいるから分かる課題もある。あるいは、一つの分野を深く掘り下げているからこそ分かる課題もある。例えば自動車産業のエンジニアでなければ気付かない問題を提案する、といった形で人それぞれがコミュニティに貢献することができる。そういう参加の仕方をぜひ学んでもらいたい」(成井氏)。
成井氏は、これからのエンジニアにはオープンソースの仕組みに関する理解が必須と見ている。「クローズドソースの世界に浸っている人、そういう中で教育を受けた人は、例えばインターネットを支えているのがRFC(Request for Comment、インターネットの技術を記述し公開する技術文書)であることを知らない」(成井氏)。オープンソース・ソフトウェアが、多くのエンジニアが無償で開発したパッチ(ソースコード)から成り立っているように、インターネットを支える技術はRFCという形の無償の貢献の積み重ねにより成り立っている。オープンソースの世界、インターネットの世界では、このような「コミュニティへの貢献」で功績があるエンジニアは、国や経歴や地位に関係なく尊敬され、高い評価を受けるのだ。
“Fee on Free” のビジネスモデルの理解が必須に
会社組織にとっても、コミュニティとの付き合い方は重要だと成井氏は指摘する。「オープンソース・ソフトウェアの世界では、国際的な貢献と競争の中で技術とビジネスを共に成長させていくエコシステムができあがっています。それを理解する必要があります。」(成井氏)。
そこで登場する考え方が“Fee on Free” だ。無料のもの、例えばオープンソース・ソフトウェアを基盤としつつ、その上で有償のサービスを展開するなどしてビジネスを成立させる考え方だ。
「“Fee on Free” 、無料の上に成り立つビジネス・モデルがある。Linuxもそうです。別の例では、米Appleの「iTunes U」があります。大学の講義をインターネットで無料で配信して、iPhone、iPod、iPadで見られるようにしてしまう。それによって、iPhoneなどが売れるわけです。私たち自身も、LPICの教材である『Linux標準教科書』を無料のiPadアプリとして配布しています。配布開始後、最初の一週間弱で4万件近いダウンロード数がありました。大勢の人が無料で読んでくれた。その結果としてLPICを受験し、Linux技術者としてスキルアップしてくれれば私達はハッピーなのです」(成井氏)。
無料・無償で行われる貢献が、国際的な技術上の競争に結び付き、そしてビジネスに結びつく──そのような活動が、さまざまな形で出現している。インターネット、Linuxに代表されるオープンソース・ソフトウェア、そして無料コンテンツに基づくビジネスなどだ。「オープンソースを生み出す仕組み」、言い換えると「コミュニティへ貢献することで技術とビジネスを成長させる仕組み」の理解こそ、今後の時代を生き抜くための究極のスキルといえる。LPICは、その理解の入り口ともなる認定資格なのだ。
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