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第3回 災害復旧時のエンジニアに必要なのは「想像力」と「偏らない知識」
──認定資格の意味を改めて考える
2011年3月11日、東日本を襲った巨大災害。この復旧に立ち向かうITエンジニアにとって、ベンダー認定資格はどのような意味を持つのか。シスコシステムズと日本オラクルの認定資格担当者に話を聞いた。
「2011年3月11日」。この日付は末永く記憶されるだろう。この日、東日本を大震災が襲った。マグニチュード9.0の巨大地震と大津波、そして原発事故──気象庁による命名は「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」。東日本全体を覆った大規模災害である。
この災害を前に、ITエンジニア達も奔走している。ネットワークインフラや、データベースを中心とする情報システムを障害から復旧させることは、社会インフラの復旧に欠かせない。
ピアソンVUEニュースレターでは 「災害時に活躍するITエンジニアにとって、ベンダー認定資格はどのような意味を持つのか」との疑問を持ち、ネットワーク機器のシスコシステムズ、情報システム構築向け製品の日本オラクルのそれぞれの認定資格担当者に急遽話を聞いた。認定資格を持つエンジニアは、災害時に大きな役割を果たすことが見えてきた。
ネットワーク・インフラ復旧では、知識・想像力が試される
大災害は、ネットワーク・インフラに打撃を与えた。ネットワーク機器大手であるシスコシステムズのエンジニアは、大震災の後で全員が多忙を極めているという。
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シスコシステムズ合同会社
トレ−ニングビジネスデベロップメント
ビジネスデベロップメントマネージャー
岡 邦子氏 |
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「シスコでは、サポートエンジニアだけではなく、すべてのエンジニアが災害からの復興のために働いています」
とシスコシステムズの岡邦子氏(トレ−ニングビジネスデベロップメント ビジネスデベロップメントマネージャー)は話す。震災により損傷した機器の代替機材の調達。被害を被る以前の構成を再現できない場合もあり、そうした場合は別の機材でどのようにインフラを構築するかを検討する。再構築のための人材の手当ももちろん必要だ。こうしたあらゆる種類の仕事が、エンジニア達を待ち受ける。
そのような非常事態で最も大事なのは「想像力」。そして、「偏らない幅広い知識」だという。
「インフラのどの部分が機能しているのか」「被害が大きいからこそ情報が来ない場合もある。被害の規模を想定し、機材を用意する」「電源は確保できているのか、調べてみる」。このように、非常時に必要になるのは、乏しい情報から、現場の状況を推理し、適切な措置を導き出すための「想像力」だ。
そしてもう一つ、偏らない幅広い知識が、災害時の復旧のような非常事態では何より重要となる。「想定外の障害、想定外の機器類の挙動などに対応するには、認定資格で問われる幅広い知識が役に立ちます」と岡氏は言う。
例えば「今の主流とは異なる古いネットワーク技術が、災害復旧の現場では求められる場合もあります」と岡氏は話す。ネットワーク技術は長い歴史があり、世代が古い技術が使われている現場もある。「シスコの上級資格の取得者であれば、古い技術の知識もきちんと勉強しています」。
例えば、最近使われるプロトコルRSTP(Rapid Spanning Tree Protocol)やMST (Multiple Spanning Tree )の基礎には、STP(802.1D、 Spanning Tree Protocol)がある。また、スマート・グリッドの分野で古いシステムの収容のためSTUN/BSTUN系の知識が求められる場合があり、さらにHDLC(High-Level Data Link Control)によるシリアル通信のような古い世代の技術が使われている場合もある。これ以外にも、仮想マシンのライブマイグレーションなどで必要となるLayer 2 MultiPathingのベースでは、OSIのルーティングプロトコルIS-IS(Intermediate System to Intermediate System)が使われている。
このように、ネットワーク技術は、異なる世代の技術が一度に使われている場合があり、非常時への対処のような局面では過去の技術も含めた幅広い知識が重要となる。
「シスコ技術者認定を持つ人、そうでない人とでは、作業スピードに差が付くはず」と岡氏は言う。非常時には、エンジニアは通常の業務では経験しない問題を解決する必要に迫られる。
偏らない知識と、その知識を使って非常事態を解決する能力が求められる。これらは認定試験が求めているものと共通点があるからだ。
情報システムの復旧では、データベースの深い知識が必要
日本オラクルの阿部憲三郎氏(オラクルユニバーシティ ビジネス推進部 シニアマネジャー)は、次のように話す。
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日本オラクル株式会社
オラクルユニバーシティ
ビジネス推進部
シニアマネジャー
阿部憲三郎 氏 |
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「大災害のとき、ITエンジニアができることを考えると、二つの側面があると思います。一つは、官公庁や企業などのBCP(事業継続プラン)の策定や運用に貢献することです。もう一つは、ボランティア活動として被災者を支援するWeb上のサービスを開発、提供するような活動です」。
一つの側面は、BCP(事業継続プラン)の策定や、ディザスタ・リカバリ(災害からの復旧)への貢献である。具体的には、日常的なバックアップ等の手順、非常時の復旧のための手順を定めること、非常時にその手順を実施できるエンジニアの確保、などだ。
Oracleの製品ラインナップには、ディザスタ・リカバリを想定した機能、例えば、スタンバイ・データベースを遠隔地に配置して、大規模災害時にも切り換えて運用できるようにするOracle Data Guardがある。また複数のサーバーでクラスタ構成を取ることで可用性を高めるOracle RAC(Real Application Clusters)も含まれている。これらの製品の知識は、災害時に備えた計画立案に役立つことだろう。
災害時にエンジニアに求められるのは、前述したように想像力と、偏らない知識だ。手順を策定するには深い知識が必要となる。また、手順を実施するためのエンジニアにも、想定外の事態をクリアできる知識、想像力あるいは応用力が求められる。「非常時にどのようなエンジニアに復旧プランの実行を任せるか、という評価基準の一つとして、認定制度を使うという考え方はあると思います」と阿部氏は話す。
阿部氏はこのように続ける。「実は、ORACLE MASTER Platinumには、ディザスタ・リカバリに関するスキルを実機試験で確かめる項目があります」。つまり、"Platinum"取得者は、災害時にデータベース・エンジニアがするべきことの基本知識を勉強し、実機による操作を経験している。災害復旧時に"Platinum"取得者の果たす役割は大きい。
ITエンジニアによる貢献のもう一つの側面として、ボランティア活動により被災者を支援するような場合を考えてみよう。そこで使われるインフラの多くはオープンソース・ソフトウエアである。「日本オラクルの場合は、MySQLの認定資格やJava言語の資格も手がけています。MySQLやJavaと他のオープンソース・ソフトウエアを組み合わせて、このようなサービスを作る可能性もあるでしょう」(阿部氏)。
日本オラクルのエンジニア達も、今回の大災害を乗り切るための情報発信を行っている。例えば、以下のリンクにあるのは、大震災後の電力不足を受けて関東地方で実施されている計画停電に備えて、Oracle Databaseのバックアップ、停止、起動の注意事項をまとめた記事である。
◎計画停電に備えて:Oracleに関しての注意事項(バックアップ・停止・起動)
http://blogs.oracle.com/oracle4engineer/column/technical/026177.html
エンジニアは、災害からの復旧、そして復興の主役となるべき存在だ。岡氏、阿部氏の話を聞くと、エンジニアの知識、スキルを評価するツールとしてのベンダー認定資格は、このような非常事態にこそ、その真価を発揮するように思われる。
今もITエンジニア達は災害復旧に奔走している。ネットワークインフラと情報システムは、今や企業や官公庁などあらゆる活動の生命線となっている。より災害に強い社会インフラを作ることに、ITが貢献することを願わずにはいられない。
末筆ながら、今回の大災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りすると共に、被災者の方々の一刻も早く日常を取り戻されることをお祈りいたします。
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